
むかーしむかし。あるところに、一本の洗濯ホースがあったそうな。
洗濯ホースの役目は排水。泡だった水やら、泥っぽい水やら、ひたすら排水、ひたすら流水。
そんな毎日に飽き飽きした洗濯ホースは、ある日、ふと思いついた。
そうだ、こんな洗濯機に接続されている限り、俺はいつまでたっても下働き。主役にはなれないのだ。
よぅし。ホースは思った。
脱出してやろうじゃないか。俺が一本で独立して生きていけるってことを、ここの住人である丸い顔の女にも思い知らせてやるのだ。
ホースは尻をまくった。
渾身の力をこめて身をよじる。体内を流れていく泡がこそばっこいが、これを感じるのもこれが最期。
せいいっぱい八の字によじりによじって、とうとうホースは、洗濯機との接続部分からはずれることに成功した。どっとばかりに、ホース内にたまっていた汚水が路上にあふれ出た。ホースは快哉をあげた。
しかし同時に、ホースの真ん中らへんにある継ぎ目がぱっくりを割れたではないか。
老体に八の字よじりはいささか負荷が大きすぎたようだ。
いまのいままで一本のホースだったものを、この瞬間から二本のホースとして生まれ変わることを余技なくされた彼は、己の行為を激しく悔やみ、
「ぶもー。ぶもー」
と言いながらちぎれた己が半分へにじりよっていった。
「ぶもー。ぶもー」
「けっ。うるせぇな。なんの音やいな」
ドアを開けて出てきたこの家の主人・丸顔の女が目撃したのは、泡だらけに汚染された路上と、洗濯機からはずれて割れた二本のホース。
ホースは、まるで生物であるかのようにのたうって、ちぎれた半身を求めてぶるぶる震えていた。
その最中、ずっと「ぶもー」という不可解な空気音を間断なくあげていたという。
(牛が鳴いてるかと思ったら、ホースだったの)
(ほんとに、にょろにょろ動いていたのよ)
(ホースはビニールテープでくっつけて、再利用しましたとさ)